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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)8992号 判決

被告 全東栄信用組合

理由

東京都杉並区西高井戸二丁目二番地の一宅地七〇坪は原告の所有であること、右土地につき、東京法務局杉並出張所昭和三七年九月二九日受付第二四一八七号を以て原因昭和三七年九月二九日付手形割引契約並びに継続的貸付契約、根抵当権設定契約、根抵当権者被告、債権元本極度額五百万円、債務者原告なる根抵当権設定登記があることは当事者間に争いがない。

そこで、被告の抗弁について判断する。

《証拠》によると次の事実を認めることができる。

原告は、昭和三六年初旬、原告住居の向い側である本件土地を訴外高橋テル子に賃貸し、その地上に訴外小俣七之助(所有名義人は登記簿上小俣弥四郎)の建物があり、右建物及び本件土地は右訴外人両名が占有していたところ、右訴外人両名を相手方として、東京簡易裁判所に建物収去土地明渡の調停申立をなしていたが、当時、時折原告方を訪れていた原告の甥である訴外北村武雄(原告の甥であることは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、武雄は、子供の時分は原告方から学校に通学し、原告の世話になり、終戦後交際が絶えていたが、昭和三五、六年頃から旧交が復活したことが認められる。)との間で本件土地の明渡を得てからの利用法について話があり、アパートを建築する計画が立ち、その資金の調達を武雄に頼んでいた。ところが、右調停は、昭和三七年八月一三日成立し、右調停申立人たる原告は相手方たる高橋テル子、小俣七之助両名に立退料として金八〇万円を支払い、右高橋、小俣は同年一二月末日限り本件土地を明渡すこと、右立退料金八〇万円の支払方法は、まず内金四〇万円を同年九月一五日限り、残金四〇万円は右明渡と同時に各支払うこと、という調停条項が定められた。これより二、三ケ月前から武雄は、本件土地の登記済権利証を預り原告のために前記計画に必要とする資金借受方を被告世田谷支店(交渉に当つた者は支店長代理貸付係長訴外宗高登喜男である。)と交渉し、宗高も本件土地を現地につき検分し、まず、本件土地を担保とし、次いで、アパート新築後それも追加担保として金五〇〇万円位を被告から借入れることの大体の話を纏めていた。偶々右調停が成立し、原告は、昭和三七年九月一五日限り立退料第一回支払分金四〇万円を支払うための金策に迫られた。そこで、原告は、昭和三七年九月初め、原告の印鑑、委任状を武雄に交付し被告から金五〇〇万円位を本件土地を担保として借受けることについての代理権を与え、その交渉についての一切の法律行為を武雄に委任し、その頃、武雄と同道して被告世田谷支店に赴き支店長代理貸付係長宗高登喜男に対し、右の金借の申入をなし、併せて、右についての今後の交渉一切は武雄に一任する旨を述べた(本件土地が当時他人に賃貸され賃借人らに対し原告が調停を申立て、原告は明渡しのための立退料の金策の必要があり、その日時、借入金融機関の点は別として、武雄において右金融斡旋の目的で本件土地登記済権利証、原告の委任状を原告が武雄に交付していたことは当事者間に争いがない。)。次いで、同月一八日、宗高は、本件土地の登記簿謄本を取寄せてみると本件土地には訴外小野利行のために所有権移転請求権保全の仮登記があることを発見したので、直ちに原告に対し右仮登記を抹消しなければ融資はできない旨伝えたところ、武雄は、直ぐ宗高を訪れ、同人に対し右仮登記は、本件土地の前所有者訴外大田廉三の訴外小野利行に対する債務金八〇万円の担保の趣旨でなされたものであるが、本件土地を原告が買受ける以前右金八〇万円は弁済によつて消滅しているから、直ちに抹消登記手続をなし得るものであり、これを実行することを確約する旨述べ、一方、融資は緊急の必要に迫られているから、出来るだけ早く貸付けられたい旨懇請したため、宗高は、これに応じ、原告に融資することとし、以後原告の代理人たる武雄との間に右金融に関して必要とする諸契約を締結した。すなわち、まず、昭和三七年九月二九日、手形割引契約及び継続的貸付契約を締結し、次いで同日右契約に基く現在及び将来の債務の担保のため、本件土地につき、抵当権設定者及び債務者を原告とし、根抵当権者を被告とし、債権元本極度額五百万円、特約として、債務不履行の場合及び期限の利益を失つた時は完済まで遅延損害金として残元金百円につき日歩七銭を支払の旨の根抵当権設定契約を原、被告間に締結し、同日、争いなき事実である本件根抵当権設定登記を了し、直ちに、右契約に基き被告は武雄に金二三〇万円を交付して原告に貸与した。なお、被告は、その後右契約に基き原告に対し金一六万円を武雄に交付して貸与し、更に、金額五〇万円の約束手形二枚の割引をしたが、これは武雄が原告の承諾の下に自己が使用するため原告の裏書のある手形を以て行われたものであり、更に金三五〇万円を貸与した。しかし、右金三五〇万円は、そのまま被告に対し原告が定期預金として預金したものであり、最初の金二三〇万円のうちから金三〇一、〇〇〇円は原告が被告に対する出資金として、また約金二〇万円は利息として即時被告に支払われたから右最初の被告の実際上の取分は約金一八〇万円であつた。

右の通り認めることができ、これに反する原告本人尋問の結果は、前掲宗高登喜男、同北村武雄の証言に照らし措信できない、また、乙第八号証(訴状)の年月日が昭和三七年十月九日とあり、本件根抵当権設定登記の日の後であることは明らかであるけれども、《証拠》によれば、本件土地の小野利行のための前記仮登記は前段認定の通り既にその目的たる被担保債権は弁済により消滅し、抹済登記手続がなされなければならない状態となつていたものと認められるから、乙第八号証は右認定の妨げとならず、他に右認定の妨げとなる証拠はない。

右認定に基けば、本件根抵当権設定登記は、被告の抗弁一、の通り登記原因を有する有効のものといわねばならないから、その余の抗弁の判断をまたず、被告の抗弁は理由がある。よつて原告の請求は失当として棄却。

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